行きつけのクリーニング屋にて、またKさんに会う。
クリーニング屋を両替所替わりにしているらしく、帽子ひとつに一万円を差し出し
おばさんを困らせている。
Kさんは声と後姿だけですぐわかる。
以前はKABA.ちゃんみたいな、どうみてもカツラにしか見えないカツラを被っていたが
今日は白髪のおかっぱ頭…地毛なんだろう。ピンクのダウンに赤いタータンチェックの
細身のパンツにステッキ姿。めちゃめちゃロックンロ~ルやん!
大人しく後ろで控えていたら、Kさんが振り向いた。目を見開き、
「あら、アンタだったの! あたしこんな白髪になっちゃって…杖ついちゃってさ。
でもリハビリがんばったのよ。明日は眼科、午後はデイサービスへ行くの」
白髪のほうがすっごく素敵です! カッコイイ。
あたしもそんな風になりたいな~(本気=マジ)。
自由に歩けるなんてスゴイ。毎日お忙しいんですね。
Kさんは独身でここ数年入退院を繰り返しているが、姉妹も多く資産家らしい。
相当おばあさんなことは確かだが、年齢はわからない。
それほど親しくはないんだけれど、なんとなく気になる存在。
あたしのこと覚えていたんだ。でも、多少認知症ではあるんだろう。
アメリカでは認知症を「長いお別れ」と言うらしい。
ゆっくりと遠ざかっていく…そんなイメージ。
初夏から近所の高齢者のホームで働いている。
認知症の方々のフロアで、だいたい15人と接している。
症状が相当進んでいるひともいれば、そうじゃないひともいて、
それぞれが優しくて穏やかで、興味深い存在だ。
たいていのひとは、認知症になんかなったら終わりくらいに思っているだろう。
しかし、ほとんどのひとはいずれはそうなる。
個体差もあるが、長生きすればするほど確率は高くなる。
しかし、それは悲しく寂しいことでもあるが、不安や恐怖から解放されることでもあるのだ。
ホームは団体行動なので時間で動く。食事、排せつ、入浴、遊び…
団体行動が嫌いなあたしは、正直嫌だなと思いながら働いている。
認知症の進んだ方は見守りが必要で、思い思いに過ごしていただくのは難しい。
でも、お互いにできるだけいい時間を作りたいと試行錯誤している。
皆さん、しばしば「帰ります。お世話になりました。
おれいがしたいけどお金がなくって。ごめんなさいね…」なんて仰る。
帰るところなんてないのに、方々へ帰りたがる。そんなときは嘘をつく。
もうすぐお孫さんが迎えに来ますから、お昼ごはんは食べて行ってくださいね。
あるいは、天気が悪くなりそうだから明日にしましょうね、とかなんとか。
あたしは先生と呼ばれ、おねえさんと呼ばれる。
「かあちゃん!」と声をかけられることもある。
ホームはそのつど学校や幼稚園や病院や家になっているようだ。
Kさんのように、大勢のひとのサポートを受けながら自宅で暮らすのは理想である。
自分も年々赤やピンクが好きになってきたのは、年をとったせいなのかも。
年を経るごとに、どんどん自分になっていく。
老いていくのも面白い。